「総司と斎藤に本気を出させてんだ。それだけで十分だ」
「あれが本気とは、思えませんけど」
「深山、お前はもう少し、客観的に自分の力量を知るべきだ」
土方さんはあきれたように溜息を吐いたけれど、私の力量は私自身が一番分かっている。
「兎も角、正直戦力が欲しい。今すぐにでも使えて、絶対に新撰組を裏切らない人間が」
「…私が裏切らないと?」
「少なくとも、長州に寝返る事はねえだろ。それさえ分かってれば十分だ」
真剣味の帯びた土方さんの目を見る限り、どうやら戯れで言っているわけではない。
永倉さんに、師範を頼まれたときのことを思い出す。――人は、誰かに求められることで、充実感を感じる生き物なのかもしれない。寂しいと、一人だと、生きてはいけない生き物。
「…、分かりました。半年もお世話になっていますから、その恩返しとさせていただきます」
「そうか、助かるよ、深山」
土方さんはそのまま、紙になにやら書きこんでから立ち上がり、掛けてあった刀を一つ手に取り、私の目の前に置いた。赤い飾り紐のついた、脇差ほどではないが、少し小ぶりな刀だ。
「これを使え」
「これは、土方さんのでは」
「ガキっつーほどでもねえけどな、上洛する前に使っていたもんだ。手入れもしてあるし、十分使える。お前、持ってねえだろ?」
両手に掛かる刀の重さは、きっと人の命の重さだ。軽いようで、とても重い。
「…有難く、使わせてもらいます」