「俺は四国屋が怪しいと踏んでるが…、お前はどう思う」
「…なんで、私に聞くんですか?」
「半年も見てりゃ分かる。お前の判断は理知的で合理的だ。使えるもんなら腐らねえ内に使うべきだ」

 池田屋事件は教科書では大して取り上げられてなかったから、私自身、どういったことが行われたのかはよく知らない。池田屋事件というくらいなのだから、会合場所は池田屋で間違いない。
 ここでもし、私が池田屋だと言えばどうなる?
 もしかしたら、未来が変わる、なんてこともあるかもしれない。別に未来が変わったって、私の関与するところではないし、私という存在が無くなっていてもいい。いっそ無かったほうが幸せだったかもしれない。
 でも、記憶の底で、幸せだった頃が、どうしても足を引っ張る。

「……、材料が少なすぎます。この状態で判断するのは難しいです」
「そうか…」
「そう距離は遠くありませんから、もしどちらかが当たりなら、伝令を使えばいいのでは?」

 私の言葉に、土方さんは納得したように頷く。

「深山」
「はい」
「…隊士として出る気はないか?」

 土方さんからの申し出。驚かないわけではないが、それでも心構えが出来ていた分、落ち着いている。沖田さんのおかげだ。

「半年も経ってんだ。撃剣師範として、他の奴らもお前の実力はよく分かっている。幹部共とも引けを取らない」
「…買いかぶりすぎですよ」

 本当に、私にそこまでの実力は無い。沖田さんや斎藤さんには一太刀でも浴びせたためしがない。いつでも防戦一方になってしまう。