「それで、何の用ですか?」
「君のほうこそあるんじゃない?松原さんから聞いたんだけど」
「…用って言うわけじゃ」
「そ?じゃあそろそろ帰ろっか」

 わざとらしくゆっくり立ち上がる沖田さんを、私はいつの間にか彼の着物の袖口を掴んで留めていた。慌てて手を離せば、沖田さんはしたり顔でこちらを見て、また腰を下ろした。羞恥とか恥辱とか、些細なプライドがずきずきして、思わずこの場から逃げ出したくなったけど、多分、今の機会を逃したらもう聞くタイミングは無くなる。

「…あくまで、一般論です」
「うん」
「人殺しの剣の定義は、なんだと思いますか」

 松原さんのように悩んだ素振りも見せることなく、沖田さんは、ためらいなく随分とあっさりした口調で、まるで気軽な世間話のように、答えた。

「身内殺しじゃない?」

 その言葉はすとん、と胸の中に落ちてきた。
 言いえて妙なり。的を射た言葉だ。

「…完璧な答えですね」

 沖田さんが果たして身内を殺しているのか。それは分からない。
 けど、土方さんが、松原さんが指した歪の正体は、私の前に明確に姿を現した。