「それなら良かった。傷も残らないといいね」
「別にこの程度、大したことありませんよ」

 手のひらに、少し皮膚が盛り上がるように出来た一直線の傷跡は目立つし長時間竹刀を握ると傷口が疼くけれど、気にならないほど回復した。

「刀って、本当よく切れるんですね」
「知らなかったの?」
「最近まで本物を見たことも無かったんで」

 私の言葉に、沖田さんは驚いたようだ。当然といえば当然だ。私が生きていた未来は、すぐ傍らに刀なんて無い時代。そんなもの、テレビや博物館でしか見れない。現代で日ごろから日本刀振り回す人間なんて、そうはいない。

「キリシタンなの?」
「は?」
「君が持ってた刃物。形は見たことなかったけど、剃刀みたいなもんでしょ?刀は見たことない。服装も異人のようだった。里は聞いたことの無い地名。山奥の寺とか、キリシタンを匿ってる場所にでもいたら、そんな人間が出来上がるんじゃないかって思ったんだけど」

 キリシタン、つまりキリスト教徒のことだ。確かこの時代はキリスト教徒であることは歓迎されてなかった。

「違いますよ。うちは仏教です」
「…だよね。檀家制度もあるし」

 例え、クリスマスを祝って、正月は初詣に行き、バレンタインデーではしゃいで、両親の結婚は教会だったとしても、だ。確か近くの寺の墓地に我が家の先祖の墓石があったはず。なんとか宗とかそういうのは、良く分からないけど。