松原さんは顎に手をあて、わざとらしいほど考えたような態度を取った。そうだなあ、とこれまたわざとらしく溜める。

「ここにいる連中は、誰もが一人は殺してる。そんな連中の剣はどれも人殺しの剣って言えるのだろうけど、――たまに別格がいる」

 松原さんは手でもてあそんでいた杯を机へ置き、私へ向き直った。横に置かれていた刀が、ちょうど私と松原さんの間に来る。

「澄み切っていた剣のはずなのに、ある日突然真っ黒に淀むんだ。それでも尚澄み切っていたときの輝きも衰えない。人の血を吸えば吸うほど、輝きが増す」

 因果なことだと思う。
 対人を想定した剣術を学べば学ぶほど、人を殺す技を身に付けることになる。そしてただの稽古では飽き足らず、あるいは必要に駆られてか、人を殺してしまったその時、その剣は初めて本来の意義を果たし、輝くのだ。人の血潮を脂のついた刃は鈍になる。されど、その使い手の腕には磨きがかかる。
 ただ、素直な気持ちで、剣の道を極めたいと願っただけだというのに。その道の果ては、幾人の人間の命と引き換えでもあるのだ。

 松原さんは自らの刀を握り締め、俯く。少し長めの前髪が影を作り、表情はよく窺えない。
 けれど――、

「まあ、確かにこういうことだったら、沖田さんのほうが理解している」

 彼の剣は確かに人殺しの剣だ。松原さんの声にならないような呟きは、なぜか確かに耳に届いた。