「ああ、そうだ。深山」
「なんですか、…松原さん」
「私のところの隊士がすまなかったね」
「そ、れは」
「副長から聞いているよ。4人を打ち負かしたとか。その細腕で見事だ」

 温和そうに微笑みながら、松原さんは杯を片手に、永倉さんを押しのけ私の隣に座った。押し退けられた、すっかり出来上がった永倉さんは不満を顕に言葉にならない言葉を叫んでいたが、松原さんが適当にあしらっていく。

「それで、沖田さんをお探しかな?」
「…なんのことでしょうか」
「あれ、外れたかな?」

 わざとらしい問いかけに辟易するが、図星なのだから何も言えない。無言を貫いていれば、松原さんは勝手に口を開き始めた。

「今日は沖田さんの隊が見回りだからね。まああと一刻もしたら帰ってくるさ。その代わりこのへべれけな永倉さんが行くんだけどね。大丈夫なんだか」
「うるせえ!俺はやれば出来るんだ!!」
「…大丈夫ですか」
「いつものことだよ」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ酔っ払いを横目に松原さんは杯を煽る。

「注ぎましょうか?」
「いや。自分の限度は分かっているからね。――沖田さんに何か用があったのかな」

 さり気無く逸らそうとしたが、呆気なく話題は戻されてしまった。見透かすようにこちらを見てくる双眸に、思わず口を開きそうになる。

「…人殺しの剣ってなんだと思いますか?」
「人殺しの剣?沖田さんに何か言われたのかな?」
「ただの、一般論の話です」