曲がり角を曲がり続けていけば、一際大きな、塀に囲まれた家屋が現れた。

 入口には火が灯った提灯と松明がゆれている。その炎が、看板を照らした。

「しんせん、ぐみ…?」
「に、何かご用で?」
「…っ?!」

 突然、ぽん、と叩かれた肩と声。
 振り返れば、提灯を持った知らない男が、にこやかに立っていた。男の後ろにも、何人か控えているように立っていた。

 笑顔なのに、どこか怖いのはなぜだろう。
 思わず、一歩二歩と、後退り目の前の男を見る。

「こんな夜更けに出歩いて、人斬りに出会っても知らないですよ」

 かちゃり、と金属の擦れる音がした。
 音の発せられた場所を辿れば、男の手には、棒のような。

 ああ、ちがう。棒なんかじゃない。

 冷たく炎の灯りを、鈍く反射するそれは、既視感を呼び起こす。

(兄が、私に、向けたような)

 既に鉄錆の匂いを滴らせるそれは、静かに私の首もとにあてがわれた。


「新撰組に、何かご用で?」

 ふと、視界が一瞬はぜて、次の瞬間はもう、星明かりも届かない。

 最後に見えたのは、何故かはっきり見えた、はちみつ色の瞳だった。