「ところで、あんた。剣、扱えんのか?」
「大したことないです」
「俺の経験上、大したこと無いっていうのは、大抵うまいやつの常套句だ。それに結構きれいな素振りだったぜ?」

 男の言葉に、思わず目を見開く。

「…いつから見ていたんです?」
「お前のとこから見えなかったのかもな。そこの木の陰で寝てたんだよ。そしたら足音したからよ」
「最初からってことですか…」
「わざとじゃないって」
「…分かってます」

 つまり、独り言も聞かれていたわけだ。
 羞恥で顔が熱くなる。元から顔に出るタイプではないけれど、耳くらいは赤くなっているかもしれない。

 木刀を持っていないほうの手で、顔を抑えていれば、男は何思ったのか、頭を撫でてきた。
 ぐりぐり、と割と容赦なく。お陰で多分、髪はぼさぼさだ。

「そんくらい表情変われば、幽霊じゃないな」
「まだ疑ってたんですか…」
「ひょっとしたら、なんてこともあんだろ」

 撫でることに満足したのか、男は手を離し、一歩後ろに下がった。
 随分と豪快な撫で方だったけれど、懐かしく感じたのは気のせいじゃない。

 重ねられるのは死ぬほど屈辱だというのに、既に私は見知らぬ誰かを、兄と重ねている。

 そして多分、名残惜しく思ったのも、気のせいじゃない。