「違いますよ。今日から、ここでご厄介になる、深山葵です」
「ん…?なあ、葵って」
「三鷹葵さんとは一切関係ありませんけど」
「…そうか」
三鷹葵の名前を知っていると言うことは、目の前の男は新撰組の中でもお偉い人間なのかもしれない。
先手を打って否定すれば、男はそっか、と言っただけ。
「実は三鷹葵の幽霊とか?」
「そんなに幽霊に見えますか?」
「おお。誰もいないはずの中庭に、白い着物きた髪の長い女が佇んでりゃ、誰でも驚くだろ」
「…」
「ま、幽霊にしちゃ美人だったな。女の幽霊って大抵生白い顔して、恨みがましい目してるだろ?」
褒めているのか貶しているのか。笑う男に、こっそり溜息をつく。
改めて、自分の姿を思い出せば、確かに白い着物をきて、長い髪は無造作に流している。
まあ、確かに、幽霊に見えなくは無い。
「んで、何?何で此処に居んの?」
「三鷹葵の手がかりになるかもしれないと言われたんです」
「違うのに?」
「違うのに」
この男はどうやらそれなりに話が分かる人間らしい。
つらつらと事情を話せば、男は曖昧に笑って、ご愁傷様、と投げやりな慰めの言葉をこちらに投げた。
「…新撰組は、内部で分裂でもしてるんですか?」
「そういうのは先月落ち着いたな」
「先月ですか」
「おう。局長粛清して、ついでに間者も粛清して。組織っつーのは何かしらそういうことあるからよ」
どうやら新撰組内も随分どろどろとしていたらしい。
人が集まれば集まるほど、様々な思想が生まれる。それが悪いこととは言わない。しかし、それが良い方向へ動くように働きかけることもまた、組織には大切なことだ。
こんな荒くればかりが集まってそうな組織で、そういい方向に進むとは思えないけど。