耳に届いた人の話し声に、ようやく自分が長い間ぼう、っとしていたことに気づいた。同じ体勢のまま、中庭を見ていたらしい。足がしびれる。
太陽は随分と傾き、辺り一面真っ赤に染まっていた。目がくらむような朱色の夕日。ふ、と思い出した兄の姿に、慌てて首を振ってかき消す。
「…ひま」
ようやく足の痺れもとれて、のろのろと立ち上がる。柱に立てかけてあった木刀はそのまま置いてあった。
中庭や、辺りの回廊を窺えば、人気も無く、聞いた話し声も塀の向こうの通行人の騒ぎ声のようだ。
そろそろと庭に下りて、これまた、置いてあった草履を拝借する。
立てかけてあった木刀を手に取り、構え、一振り。
風を切る音が、やけに耳に響いた。
「重…」
手に持った感触からして重いとは分かっていたけれど、振ってみると更に重い。竹刀と違って、手首にやたらと負荷がかかる。
もしかしたら、真剣以上に重さはあるのかもしれない。
「…、こんなの振り回してばっかりじゃ、地区大会にも行けないでしょ」
こんなの一振り一振りが重くなるだけ。筋トレにしかならない。
腕っ節だけが強くても、公式試合なんかじゃなんの意味もない。
テクニックと素早さ。それさえあれば、誰でも勝てる。これが、私の持論だ。
だから。
頭の中で、幕末時代の歴史を辿る。明治になる頃、そこに、新撰組の名前なんてない。
結局、
「…結局最後は負けるんでしょ」
「聞き捨てならない言葉だな」
「…」
「変なこと聞くけど、あんた、幽霊じゃねえよな?」
いつの間に居たのだろう。
そういって、青みがかった髪を持つ男は軽快に笑った。