2.


 私の返答に、近藤さんはこわばらせていた顔を幾分和らげて、そうか、と言った。そして、このままこの部屋を使ってくれて構わない、と言い残し、近藤さんたちは部屋を出て行った。
 散々揉めていたわりには、呆気なく引き下がっていったような気もする。


 一人になった部屋は随分と静かだった。
 彼らが出て行ったきり、閉じきった障子を開けば、中庭が広がっていた。さっきは何人か人が居たが、いつの間にか誰も居なくなっていた。よくみてみれば柱に無造作に手ぬぐいと木刀が立てかけてある。

「…部活かっての」

 部活が終わったあと、一人残って自主練していた柔剣道場。誰かが片付け忘れた竹刀や防具。たまにバスケットボールなんかも転がっていて。

「…」

 太陽は真上を通り越し、少しずつ傾きかけていた。

 これから、どうするの。

 三鷹葵という人間を探す手伝いになれるとは思っていない。そもそも協力する気もない。
 ここで暮らす以上、何かしらの手伝いはするつもりだが、こればかりは頷けない。

 何よりも、
 一度死を決意し、身を投げた人間が、どうして生き続けられるのだろう。

 この世界には、誰も居ない。
 彼も彼女もあの人もアイツも。
 私が知る人間も、私を知る人間も、誰一人居ない。

 生きやすい場所かもしれない。
 でも、生きる理由なんて、とっくに見失った。

 辺りが夕日に真っ赤に染まるまで、私は呆然と考えていた。