違います、とかろうじて絞り出せた声は、随分と弱々しいかった。

「そもそも、その、次男を殺す理由は、無いじゃないです、か」
「…女性の前でこういう話は気が引けるがね…。恋仲であったのは、一番上の兄とであったが、二番目の兄とは、夜を共にしていたそうだよ」

 頭を抱えたくなるほど、頭が痛くなる話だ。
 その二人の兄を足してしまえば、もう、それは私の兄と同じ。もう、笑うしかないじゃない。

 けれど、私が殺したのは、確かに平成の世で生きる私の兄だ。
 三鷹なんて人たちは知らない。

 三鷹葵。
 彼女が何者なのか、私は知らない。

 例え彼女と私の人生が似通っていたとしても、私は、彼女ではないと、私が一番分かっている。

 冷静になれ、冷静になれ。
 ここにきてから、何度も自分を落ち着かせるための言葉。

 頭の奥の、鈍い痛みには、気づかないふりをして。

「はっきり、言います。私は三鷹葵、という方ではありません」
「しかし…眉唾物な話だが、記憶が飛んでいることも、」
「そんなことありません」
「なら、君は何処から来たの?」

 ふいに口を挟んだ沖田の質問は、随分と答えにくい。

「分かんないんでしょ?」
「…貴方方が知らないだけです」
「そう?」

 口癖なのか、沖田さんのこちらを疑うような相槌から、会話が途切れた。
 近藤さんは何か考え込むように目を瞑っていて、土方さんは近藤さんの判断を待っているように、静かにこちらを見ていた。沖田さんも同様に。

 身を刺すような沈黙は、近藤さんの言葉で打ち切られた。