「娘が行方をくらませたのは、もう三年前の話だが、当主は今も探している。莫大な金を賭けて。三鷹家は幕府にも強い影響力をもつ家柄だ。だから私達が上洛する際、会津、松平公からも娘探しを命ぜられている」
「私には、関係のないことでは?」
うそだ。
さっきから、既視感が頭を苛んでいる。
じっとりと、嫌な汗が身体を包む。
「その娘の名は三鷹葵。容姿は青み帯びた黒髪に、真白い肌。瞳は光を受けて深い紺色に見えるとか。そして右目の下の泣き黒子」
「…、」
「深山くん。君にそっくりなんだよ」
そして、近藤さんは躊躇いながら、再び口を開く。
「君は、三鷹葵ではないのか?」
まるで他人事とは思えない、その少女の話。
「そんなこと、」
「総司から聞いた。君は兄を、…殺したそうだね」
「それ、は、」
それは三年も経ってはいない。
つい、先日の話。
「…昨日、三鷹家の嫡男…次男が殺された」
「うそ、」
「下手人は未だ捕えられてはいない」
近藤さんが、痛ましそうな目で、こちらを見る。
違う。
私じゃない。
私のお兄ちゃんは、
「本当に、君ではないのか?」
三鷹葵殿。
呼ばれた名前が、酷く懐かしい気がした。