目が覚めて、木々の隙間から、やたらと明るく見える星空を見つめれば、死に損ねた、と思った。

「…あ、れ…?」

 そろりと状態を起こせば、身体はどこも痛くは無い。

 暗い竹林の中、私一人、寝転がっているだけだった。

「なんで、」

 そもそも飛び降りたのは、ビルの屋上からだった。おそまつな街路樹の並ぶオフィス街に、こんな竹林のような場所は無かったはずだ。

 のろのろと立ち上がり、辺りを伺う。どこまでも暗い竹林。見覚えのない場所だった。

「…なんなの」

 なぜこんな所にいるのか、意味も分からない上に、雨に降られていたせいで、身体にはりつく濡れた制服が気持ち悪い。


 けれど、悩んでいても仕方がない。
 ぐしゃぐしゃと水音を慣らしながら、葵は足場の悪い竹林の中を歩き始めた。

(だれもいないのなら、それは、それでいいかもしれない)