「…お聞きしたいのですが、」
「ん?」
「ここは、どこでしょうか?それと、西暦…年号と日付を、教えていただけますか?」
男は首を傾げるも、すんなりと答えた。
「文久3年、12月。君を新撰組の屯所、正確には壬生村の八木邸と前川邸なんどけど。その門で見つけたんだ。そのまま倒れたものだから、運んだんだけどね」
どういうこと。
どうかこの男が、実は頭のおかしい男でありますように、と心の中で願うばかりだ。
「どうしたの?まだ気分が悪い?」
「…いえ、」
視線を上げると、男の向こう側に開きっぱなしの障子が見えた。大きく開いた障子から見える、電線の1本もない澄み渡る青空。
確かに、あんな世界から消えてしまいたいとは願った。あの世界が消えない以上は、私が消えるしかない、と。
誰も私を知らない世界に一人きり。
そんなこと、どれほど望んだことか。
家族に、友人に、自分を取り巻いていたものに、全く未練はないけれど。
私を取り巻いていた世界なんて、ごく狭い範囲のものだ。
それこそ、他県にでも、いっそ海外に逃げてしまえばよかったのだ。
けれど、ああ、こんなこと。
よりによって、時代が違うなんて、
「帰る場所が、ないんです」
生きる術が分からない時代に、飛ばされるなんて!