雨と共に、遥か真下の冷たいコンクリートに叩きつけられて、逝くはずだったのに。
目が覚めたら、そこは柔らかい土の上。見たことも無い竹林で。
「…っそれ、に、何ですか。和服着てたり、日本刀、もって、たり」
時代錯誤とは言っても、人の趣味を否定する気はない。
けれど、見ず知らずの他人を、スパイ呼ばわりして、服のポケットを勝手に漁って、そして今度は殺人容疑?
最後の一つは、否定できないけれど。
それはもう自嘲するしかないだろう。
突きつけられた刀を握りしめ、無理やり自分の首元から、逸らす。
手のひらから突き刺さる痛み。白い手首を伝って、血は赤い斑点を広げる。
「何を、勘違いしているのかは知りませんが」
言葉を区切り、少し、深呼吸。
これから吐き出す言葉は、己の罪を、認めることだ。
一生背負って、生きていかなければならない、
「私が殺したのは、私の兄だけです。そして、私を殺していいのは、きっと、兄だけです」
「…へえ」
男は意外そうに、けれどそれ以上に愉悦の笑みを浮かべる。
「その言葉に、嘘偽りは?」
「貴方に言う必要が?」
「嫌疑を晴らしたいとは思わないの?」
「私は、私が誰を殺したのか、誰よりもわかっています。それ以上、何が言えますか」