しばらくして、男は笑いも収まったのか息を整え、改めて口を開いた。

「間者というのは、密偵みたいなもの…、敵の本拠地に忍び込む人間のことだよ」
「そっちの“かんじゃ”、ですか」
「うん、分かってもらえて良かったよ」
「…、それなら何故、私を疑ったんですか?」

 私の質問に、男はいい質問だ、と目を細めて笑う。

「たまに居るんだよ。破落者に襲われました、助けて、と叫んで此処に駆け込んでくる女が」
「その女が、実は間者だったと?」
「そう。それに此処は男所帯だからね。隊士を抱き込んで、殺す、なんてことも、無いとは言えないからね」

 ああ、だからか。確かにそれは分かる話だ。筋が通っている。

 しかし、納得はしていない。

 そもそも、現代にそんな話があってたまるものか。

 戦国なのか江戸なのか、歴史はあまり得意ではない。しかし、話の内容は、そんな昔の、それこそ時代劇に出てきそうなことくらい分かっている。