夏休みになった。

あの、針のむしろのような教室に行かなくていいだけで、気持ちはずいぶん軽くなった。

iPodで音楽を聴きながら、走りすぎていく名も知らぬ街や山を眺めていると、なんだか一人だけの心地よい空間にいるような気になってくる。

思わず、口ずさみそうになって慌てて口をおさえた。

いけない、いけない。

今、私は新幹線に乗っている。

休みのたびに、東京に住んでいるお父さんのところに泊まりに行くことになっているのだ。

せっかくお母さんが久しぶりに帰ってきたから、少し家でお母さんに甘えて過ごしたかったのに。

「ママ~ン、今回はお父さんち行かないことにしようよぉ」

浩二おじちゃんも加勢してくれたけれど、

「そうだそうだ!あんな変態キリン野郎のとこなんか、行くことない!ばんび、俺と一緒に富士山登ろう」

本心はお父さんに対する嫉妬と、趣味の山登りの相手がほしいだけだった。

「それはいい。だって、富士山には友達と登るんだもん!」

「うーん、そっかあ。って、ガーン!俺は友達じゃないってことか!」

「友達じゃないじゃん。おじさんじゃん」

「二人ともツベコベ言わない。行くのよ、ばんび」

お母さんは、変わってる。

普通は、別れた元夫のところに娘が行くのは寂しいものだと思うんだけど。