「え?」


驚く先生を前に私は指輪をなくしたいきさつを話した。


「そうか。そんなことがあったのか」


「ごめんなさい」


再び謝ると先生は何も言わずに私を抱きしめた。


「気にするな。お前がそんなに必死になって探してくれたことの方が、嬉しいよ。そんなに身を削ってまで…」


先生がそう言ってくれることが嬉しかった。


「あの指輪、あげた時はサイズがぴったりだったのに石を投げたくらいで外れてしまうなんて、お前も痩せたな。そんなに悩んでいたのか。気付いてやれなくて、ごめんな」


先生の腕に力が入る。


痛々しい表情で私を見る先生の目は慈しみに溢れていた。


まるで小動物か何かのような、か弱い存在を見守るかのような目だった。


「先生」


「ん?」


「あの写真のことなんですが」


「あぁ、あれか」


「あれは本当に違うんです。ただの友達です」


「そうか」


「怒らないんですか?」


「怒らないよ。あの時、俺、なんかものすごくいらだっていて八つ当たりしてしまったんだ。お前が浮気なんてする奴じゃないことくらい、わかっていたのに。それに不安だった」


「不安?」


「お前の様子、ここ最近で明らかにおかしかった。だけど何回聞いても話してくれなかったよな。無理に聞くものじゃないとわかっていても、何があったのか気がかりで仕方なかったんだ」


知らなかった。


先生がそんなにも私を想っていてくれたことに。


気付かなかった自分が愚かにすら思えるくらいだった。


私、気まずいくらいで先生を避けていたんだ。


バカだな、私は。


先生はこんなにも私のことを考えて、悩んで、八つ当たりするくらい苦しんでいたというのに。