意識を取り戻して最初に目についたのは真っ白な天井だった。


なんだかふわふわした気分。


「どこだろう。最新式の天国ってこんなところなのかな」


そんな変な独り言を呟いた。


しかし私の口には酸素マスクが付けられ、右腕には点滴の針が刺さっていた。


おまけにあちこちに傷をつくってしまったようで、身体中が痛い。


その時、ドアが開く音がした。


誰だろう。


カーテンに遮られて姿が見えない。


あの世を統帥する神様かな。


その人はカーテンを開けるシャッという音と共に姿を現した。


とたんに胸が高鳴る。


「先生!」


そこにいたのは世界で一番会いたかった人だった。


「流星!良かった。本当に良かった…」


先生は心底嬉しそうな顔で言う。


心から私を心配してくれていたんだ。


そう思うと胸の奥が燃えるように熱くなった。


「あの、私は一体何を?」


「川岸に全身びしょ濡れになって倒れていたらしい。あんなところで何をやっていたんだ?」


「…」


どうやらあの後、運良く川岸に流れついたらしい。


だが、その途中であちこちにぶつかったらしく傷だらけだった。


あっ、そうだ。


指輪…。


自分の左手の薬指には確かに指輪はなかった。


「そういえばお前、丸2日間も眠っていたんだぞ。8月1日に発見されて、今日は8月3日だ」


「そうなんですか。どうりでお腹がすいたわけだ」


「あっははは。まったくお前ときたら」


先生のそんなまぶしい笑顔、久しぶりかも。


「そうだ。とりあえず医師を…」


「先生、待って下さい」


私は先生のワイシャツの裾をつかむ。


「どうした?」


2人きりのうちに言っておかないと。


「ごめんなさい。結婚指輪、なくしてしまいました…」