きらきらと輝いてる。私が作る弁当はいつも殆ど黒い。真っ黒。
それに比べて、お父さんが作ったのは彩りがハンパない。すごく綺麗だ。
まあ、あの人器用だしな…。思いながら、ぱくりと口の中に焦げてない卵焼きを運ぶ。
うわ、美味しい。
「…怜香、なんでお父さんこんな器用なんだろう…」
「なんで遺伝しなかったのかが不思議だよね」
「して欲しかったわ」
思わずお父さんに聞いてしまいそうになる。
……お父さんと私って、まじで血繋がってますか?って。
いや繋がってるよ?繋がってるけど。
「佳奈の父親って歳いくつ?若いよね」
「詳しい歳は知らない。若い?」
「あたし最初見たとき兄弟とか親戚かと思った。父親には見えない」
「若い、かな」
「見た目が若い」
言われてみれば、まあそこそこ若いかもしれないな。
私も老いてから若々しく見えるといいんだけど。…遺伝してて欲しい。そこだけでいいから、せめて。
「佳奈の父親って優しそうだよね」
端で口にお菜を運びながら、怜香は私に言った。
「優しいかもね。昨日頭撫でられたよ」
「溺愛し過ぎてる」
「流石にここまで来ると気味が悪いよね」
思わず苦笑い。優しいけど、優しいけども。
流石に"限度"ってものがあるんだよ、お父さん。
「まあ良かったじゃん。良いお父さんで」
「そう思うことにする」
ぱくり、次はハンバーグを口に運んだ。…これもまた美味しくて、
自分が女に生まれてきたことが哀しくなった。哀しい。
「…美味しく綺麗に作れるように、頑張るよ、怜香」
「…何年かかるかが問題だけどね」
「え、そんな?そんなかかりそう?」
「かかりそう」
ええ…。がくりとうなだれる。頑張ろう、どうせなら怜香が驚くくらいになりたい。
そう思いながら視線を隣に滑らせれば。
「…お互い、やりたいことやれば良いよ」
「やりたいこと?」
「やりたいこと」
そう怜香が言った。…やりたいこと、か。
「じゃあ私は夏樹君のこと郁也に言ってみるよ」
「頑張って」
――――――…
「野崎、束縛して欲しいのかよ」
「そんなこと一言も言ってませんが」
顔を顰た郁也に一言。なに勘違いしてるの。
ていうか私の話聞いてたのかな、郁也は。
「だからね、夏樹君は束縛魔なんだって」
「それ野崎が俺に束縛してくれって言ってるように聞こえる」
「言ってないです。…怜香が困ってたんだよ」
「間宮が?夏樹に束縛されて?」
「…らしいよ」
夏樹君のことを、郁也は『夏樹』と呼ぶ。
私のことは苗字なのに。…っていかんいかん。なにを考えてるんだ私は。
少しだけ、ほんの少しだけ、イラッとしてしまった。
それを隠すように、言葉で苛立ちを縫うようにして塞いだ。
「怜香、今日どんよりしてたんだよ。なんかね、夏樹君に昨日―――」
ぴたり。そこで動いていた唇が止まった。
「……夏樹がなに?」
続きを言わない私にそう問い掛けた郁也に、焦りが全身を駆け巡る。
…『夏樹君に昨日すごい腕力で抱きしめられたんだって』なんて、言ったら。
それこそ今私に『束縛して欲しいのかよ』なんて言った郁也に言ったら。
……私が郁也に抱きしめて欲しいって思ってるって、解釈されません?
「……、」
これ言っていいのか?思わず口を固く結んで静止した。
言ったら言ったで、郁也にそう思われそうだ。…いや、…正直言うと、そう言ってくれたら、嬉しかったりする。口が裂けても言えないけど。
「…夏樹がなに?」
「え、えっと」
放課後の帰り道は、あまり人気がない。駅まで行けばもうすこし賑やかになるだろう。
だけどそれまで、私が口を割らないわけにもいかない。
意を決して、ゆっくりと口を開いた。
「…な、夏樹君に、…昨日すごい腕力で抱きしめられたんだって」
「幸せな近状報告だね」
「…え」
あ、あれ?思わず落としていた視線を郁也へ向けるべく、上げた。
予想に反して、郁也は足を止めずにそう、いつも通りといえばいつも通りの相槌を打っただけだった。
「…なに?」
「あ、…いや、…なんでも、ないですよ」
「電車嫌だよな」
「え?ああ、そうだね」
そう返せば、いつも通りの郁也が、いつも通りの表情で隣を歩いていた。
…なに期待してたんだろう、私は。
がたん、ごとん。
揺れる電車の中で、二人で並んで腰を下ろした。
…期待していた自分が恥ずかしくて、いつもより少しだけ俯きがちになっていた。
「…野崎」
「なんでしょう」
「夏樹のこと好きになった?」
「はい?」
ぱっと顔を上げる。
「やっぱり顔上げた」
「は、え、は?」
「いや、なんとなく顔上げるかと思った。なに?好きになった?」
「いやいやいや、夏樹君は無いよね」
「でも夏樹のことは気になったわけだ」
「…話したことそんな無いから、気になったんですよ」
深い意味は、ない。
「へえ。それで野崎は俺に抱きしめて欲しいわけだ」
「まあ願望なんですけどね。相手が相手ですからね」
「へえ。そんな願望持ってたんだ」
「まあ少しは。…………………………今の聞いてました?郁也…さん」
「隣にいたからな」
「気付いてた?もしかして気付いてたの!?」
思わず言ってしまった言葉。顔に熱が集まるのが自分でもわかった。
最悪最悪最悪最悪!知ってたんじゃん!知ってたんじゃん郁也!
「ちょ、超恥ずかしいんだけど…!」
「抱きしめて欲しかったんだ。野崎は」
「違う!いや違くはないんだけど、…ち、違うんだよ!」