「今、起こしにいこうかと思っていたんですよ」

「…そう」

「そのご様子ですと、今日も夜更かしされていたんですか?」

「…」


まさにその通りであったので――寧ろ寝るどころか一睡もしていないという事態だったので――、ぐうの音も出ず黙り込む。

すると、メイドは楽しげに鈴の音のような笑い声を漏らす。


「ふふ。相変わらずですわね、ファイナ様は」

「…悪かったわね」


拗ねたように言うと、メイドはやっと笑うのをやめて、こちらに目を向けた。


「さて、お嬢様」

「…」

「本日は旦那様もおっしゃっていた通り、お嬢様への求婚者の方がいらっしゃいます」

「…」

「お客人がそろうのは昼過ぎになりますので、それまでに支度をしてしまいましょう」

「…そうね」

「ですからその仏頂面をどうにかして、目の下の隈も隠しましょうね」

「…」


彼女・ファイナは頷きつつ、いつも感じることをまた今日も感じた。


(主の私より、どうしてルノーは偉そうなのかしら?)


そんな心中を押し隠しつつ、長年の付き合いであるメイド・ルノーに促されるまま、ファイナは身支度を始めた。