庭園に出ると、咲き誇る花に囲まれてネビル・ファグネウス子爵が立っていた。


ファイナに気が付くと、丁寧に頭を下げて彼女を迎えた。



「お待たせしましたわ、ネビル様」

「いえ、来てくださってありがとうございますファイナ様」



胸に手を当て頭を下げる。



「美しい庭園ですね、眺めさせていただきました」

「お母様のお気に入りでしたの。今も専門の方に手を入れていただいて、毎年父が人を集めてガーデンパーティーをしています」



ファイナは花壇に歩み寄り、花びらに触れる。


黄色の花は、花びらを幾重にも重ね、美しく咲き誇る。



「見事な花ですね。庭園のあちらこちらでお見かけしました」

「父のお気に入りなんです。よく花瓶に入れて部屋に飾っていますの。目にすると和むと」

「そうですか。では――」



ネビルの目が、ファイナをまっすぐ見る。







「ファイナ様がお気に入りのお花はどれでしょうか?」







ファイナは思わず言葉に詰まる。



「私、ですか?」

「ええ。ファイナ様の心をお慰めできるものを知りたいのです」


熱心に見つめられながらの言葉に、ファイナは寒いものを感じた。


どうにもこの熱い視線が、妙に合わないのだ。



(いや、わかるわ。この人は私に求婚してるんだから、気に入られようとするわね、普通)



と、頭の中で理解はできても、生理的な面は理屈でどうにもならない。