…曖昧に濁した関係。
別れてはいないし、友梨に彼氏なんて俺以外にいない。…あの柴崎という男子も、彼氏なわけじゃない筈。
「あの、…よろしく、お願いします」
「畏まらなくて良い。
―――――よろしく」
ただ今は、逃げることだけが自分に出来ることだった。
―――――…
自分の嫉妬で、彼女に涙を流させたのはわかっていた。
自分が悪くて、自分の嫉妬で。彼女はなにも、悪くなくて。
後悔ばかりが、襲い掛かってきた。今更だった。
あのあと付き合った彼女とは、続かなかった。
あやふやなままだった友梨と自分の関係に終止符が打たれたのは、友梨が自らマネージャーを辞めたときだった。
それと同時に、自分から付き合っていた、隣のクラスだった彼女に終わりにしたいとだけ告げた。
申し訳なかった。結局、ずるずると引きずっていたのは俺だけで。
あんなにも友梨が、
苦し紛れに持論をぶつけてくるなんて思ってもみなかった。だから。
だから今、こんなにも、混乱している。困惑している。
『、私ばっかり』
『もう良いよ』
「―――――、」
混乱して、曖昧過ぎた過去に苛立ちが襲う。
気が付けば。
――――彼女のいる教室に、足を運んでいた。
***
ざわざわと、休憩時間は賑やかだ。
前の授業中は、殆ど集中が途切れて、なにも手に着かなかった。
「結菜、…何してるの」
「変顔の練習」
「…なんで」
「これ小顔効果あるらしいよ。え?変顔しててもあたしって可愛い?ありがとー知ってる」
「何も言ってないわ。ていうか怖いよそれ。変顔通り越して宇宙人だよ」
「じゃあ宇宙人で」
昨日あったことを結菜に話してみたら、案の定、結菜は私に気を使っていた。
今だってそうだ。無理して、笑わせようとしてるんだろうか。…変顔、だけど。
「大丈夫だよ結菜、気にしないで」
「いやいやいや、あたし別に気にしてない気にしてない。ほら、あのさ、…あたし、宇宙人だからさ」
「理由が理由になってないよ」
困ったように笑えば、結菜は眉を顰た。
――――その、とき。
「―――――友梨」
がらりと、教室の扉が開いた。
ざわめきが広がったかと思えば、しんと教室内に静寂が訪れた。
「え、」
躊躇いなく、彼が、私の方に歩み寄ってくる。
一方で、私は逃げたい衝動にかけられる。なんで来た?なにしに、来た?
そう思った矢先、もう目前まで来ていた隼人に、腕を捕まれた。
どくん、心臓が暴れた。
「っ、ちょ、…隼人」
「……」
「離してよ、」
「……」
「え、あ、ねえ、」
そのまま何も言わず、私の腕を引いたまま、隼人は歩きだしてしまった。
「……っ」
俯く。ねえどうしよう。泣きそうに、なる。
「隼、人」
教室を出て、廊下を突き進む隼人は、なにも言わない。
人気のない廊下の端まで来たとき、その足はぴたりと止まった。
「っ、…離し、」
「…ごめん」
捕まれた腕を拒めば、隼人は、…私を、引き寄せた。
びくり、驚きに身体が震えた。首元に、隼人の息がかかる。
「…っ、な、んで」
「ごめん」
「、…それだけじゃ、わかんない、」
涙が出てきそうだった。久々過ぎる、この感触。
ああ、隼人、だ。
隼人が、こんなに近くにいる。
涙が頬を伝ったのは、すぐにわかった。
「っ、私なんて、嫌いなんじゃないの」
「嫌いな訳ない」
「っじゃあ、何で…!」
唇を噛み締める。
隼人が、力強く私を閉じ込めるから、悲しくて仕方ない。
どうしようもない。…本当に、どうしようもなかった。
「嫉妬してた」
「…え」
「柴崎って奴に対して嫉妬してた。…友梨、泣かせてごめん」