「心が読めなくなった?」

「うむ。気がついたらぱったりと読めなくなってしまっていた」

夜魅の両目はいつの間にか、左右両方とも同じ黒一色に変わっていた。

インパクトは薄れたが、他に何が変わったわけでも無いので気にしていなかったのだが、まさか……。

「まあ、よかったではないか空。もう私に勝手に読まれる事もない。嬉しい限りだろう?」


一般病室に移されてからの夜魅の回復は目覚ましく、時折口をついて出る皮肉にも“キレ”がでてきた。


「そうでもないさ。俺はあんまり嫌だと思ってなかったしな」

「ふふ……私はお前のそういう所に惚れたのやもしれんな」

俺は、そういうことを恥ずかし気もなく言ってのけるあたりが好きだってことは、本人にはまだ秘密だ。


「しかし、これでただの人間になってしまったかと思うと……嬉しいが淋しいな」

「でも、もう自分で自分を『化け物』なんて言う必要もないんだぞ?」

「あ……」

それを聞いた夜魅の目元がじわりと緩む。

「そうか……私は、もう……誰にも臆する必要もないのか……」