夜魅


夜魅


夜魅


夜魅


夜魅―――。



「たわけ。そんなに呼ばずとも聞こえておるわ……」


え―――

ついうとうとし始めていた瞼を強引にこじ開ける。

「夜魅……お前……」

「『お前』は止めろと言っておろう……」

人口呼吸器越しのくぐもった声が聞こえてくる。

その声は弱々しかったが、しっかりとした『生』を感じさせる口調だった。

「まったく……人が頑張って帰ってきたというのに『おかえり』の一言も無いのか?」

「あ、ああ……そうだな」

桐原は袖で急いで涙ぐんだ両目を拭い、満面の笑みを引っ張り出した。




「『おかえり』……夜魅」




「『ただいま』……空」




いつの間にか雨は上がり、東の空から覗く朝日が外の水たまりにキラキラと宝石のように反射していた。

また今年も、暑い日差しの夏が始まる―――。