「誰かー?ふむ、誰もおらんのか?」

開いていた入り口から中を覗き込んでみるが、桟橋と共に佇む小屋の中は伽藍としていて人の気配がなかった。

そればかりか、人の生活していた痕跡が一つもない。


何もない四角い箱―――


そんな閉鎖的なイメージを抱かせる。

「邪魔するぞ?」

誰もいない部屋の中に入ってみると、部屋の中心に唯一、紐のようなものが垂れ下がっているのが見えた。

呼び鈴のようだ。紐を辿った先の低めの天井付近に、小さな金属製の鈴がついている。

惹きつけられるように紐を引く。


チリーン――……


見た目とは裏腹に、風鈴のような澄んだ音が四方の壁に反響して響き渡る。

……が、何も起きない。


(はぁ、いったい何のための紐だ?呼び鈴かと思ったが、まさか飾りということもあるまいに……)

不思議に思いながらも一歩小屋の外に出てみる。


「儂を呼んだナ……」

「おぉ!?」

どこから現れたのか、桟橋には木製の小舟が一隻と、ボロの灰色のマントを着た小柄な老人らしき人物が立っていた。

「き、貴様!いつからそこにいた!」

老人は夜魅の問いには答えず、曲がった指を広げて突き出すと、消え入りそうな声で「渡し賃ヲ」とだけ言った。

「渡し……賃?」

「渡し賃ヲ」