なんだ……ここは―――


(草の匂い?)


瞼を開くと、名も知らぬ雑草と沢山の赤い花の上に寝そべっていた。

空は青くどこまでも澄み渡り、爽やかな風が頬を優しく撫でる。

少し盛り上がった丘の上のようだ。柔らかい低草がくすぐったい。

「私は……それに……ここは……?」

上半身だけむくりと起き上がって辺りを眺めてみる。


自然以外は何もない草原。


眼下には、蔓延と水をたたえた川らしき水の流れがうっすら見える。そして川の上には深い深い霧が、レースのカーテンのようにたれ込めていた。

「ここはこんなに晴れてるのに?」

川の上空からいきなり白色の層が現れているようだ。

対岸は濃霧によって見えないが、とてつもなく大きな川のようだ。


ふと気がついた。

嘘のように自分の体が軽い。

気分もいい。

気持ちの中に不安や心配といったものが一切存在しない。

何かを忘れている気もするけど……そんなこと、どうでもよくなっていた。


空気のように軽い体を感じつつ立ち上がり、辺りを見回してみる。

(本当に何もないのぉ……む?あれは……)

川縁にボロボロな、今にも崩れそうな平屋が見えた。

(ふむ、行ってみるとするか)

夜魅は駆け足で丘を下り始めた。



辺りに咲き乱れている赤い花は、彼岸花。


別名『死人花』


それは三途の川の岸部に咲くという―――