昔々あるところに……で始まる物語は数あれど、自分の歩んだストーリーは一本の道でしか有り得ない訳で。


いつからでしょう?“人”が怖くなったのは―――。


桐原は子供達の中で、群を抜いて飛び出た『武』の才の持ち主だった。

武術・体術・剣術などを片っ端から学び吸収していき、いつからか『神童』とまで呼ばれ、恐れられるようになった。


桐原が恐れられたのは、なにも技が凄かったからだけではない。

同世代、はたまた目上の人々をも恐れさせたのは、どんな技を受けても痛みを感じないかのように平然と立ち上がる姿。

そして眼前の敵を打ちのめすことしか見えていない暗く深い目―――。


気がつけば少年はいつも一人ぼっちになっていたのです。

いつからか、人が畏れたように桐原は人を恐れ、人が避ける前に自ら繋がりを裂いてしまいました。


それでおしまいではありません、この物語は桐原が死ぬまで続くのだから。


ああ、まただ。また俺は昔の……あの頃と同じ過ちを繰り返そうと……!



冷たい雨に引き戻され、ハッと桐原は我に返った。

「夜魅……」

そっとしゃがみ夜魅を再び見ると、雨でびしょ濡れになった白い筋張った両の掌が頬に伸びてきた。

「また『ごめん』か?」

その顔は泣きながらも笑顔だった。

桐原は両手で顔を抑えられ、逸らすことが出来ずに夜魅の顔を見つめ返すしかなかった。


「なぁ空よ、昔の事は忘れろ。私は……私は“今”のお前が好きなのだ。血が苦手で、女が苦手で、人付き合いが苦手で……それでもこうしてまた私を助けてくれる今のお前がな」

桐原が黙って顔に押しつけられた夜魅の両手を握りゆっくり頷くと、お人形のような少女の真っ白な頬に、明るい紅色がさした。