空模様は益々悪化し、耳をつんざく雷鳴が鳴り響き始める。

稲光が夜魅のざわめく心を映すように、暗い暗雲立ち込める空に黄色い亀裂を幾重にも走らせる。


ポタッ……

ポタッ……

左腕から鮮血が滴る。

足元の水たまりが赤く染まる。


自らのではない。血。


ナイフを持った男は顔から地面に突っ伏していた。

もう一人の男は相方が倒れるやいなや、夜魅を放し仲間を見捨て、一目散に逃げて行ってしまった。

「外道が」

桐原はそう呟いて雨で濡れた髪を掻きあげ夜魅へと視線を移した。

少女は血で染まった桐原の左腕を見つめたまま、へなへなと座り込んでいる。


「空……怖い……」

「大丈夫、大丈夫だよ」

そう言いながら近づいて行くものの、夜魅の態度がどこかおかしい。

石川に怯えるのでも、ナイフに脅された事に怖がっているのでも無さそうだ。

後一歩で手が触れられる距離まで迫って、初めてその意味を理解した。


「お前が……怖いのだ」


ピカッ!

夜魅が後退りしながら呟いた一言。

雷光と共に突き刺すような一言で、桐原は忘却の彼方、自ら記憶から消し去った幼少の頃に引き戻された。