少女は動揺を押し隠し、作り上げた冷たい笑顔の仮面を貼り付かせると、立ち上がって一人で騒ぐ桐原を見上げた。

「信じられねぇ……!」

「おい」

「こんなこと……!!」

「おーい、お主?」

「わーい!!!」

「ぅおい! 話を聞けと言うに! 何を一人でにやけておるのだ!」

 少女に渇(プラス意外に効く膝裏へのローキック)を入れられ、カクンと頽れかけた桐原は、ようやく我に返った。

「あ? ああ、こうやってまともに女の子と話し……会話になったのはかなり久しぶりだからな。で? 何の話だっけ」

「お……お前は私が気味悪く無いのか?」

「何で?」

 本気で分からないといった顔をする桐原に、少女は眉をひそめると、ずいっと顔を近寄せてきた。

 やはり緊張はしない。むしろどこか安らぐような気さえする。……まぁ、後半はほぼ気のせいだろうが。

 桐原の間の抜けたような言動に、少女は訝しむような視線を向ける。

(何なのだ? こ奴……)

「私は勝手にお前の心を覗き込んでいるのだぞ? 気味が悪いと思うのが普通であっても、別にということはないだろう」

 ここでやっと桐原は、少女の左右の目の色が違うことに気がついた。

「いや、別に見られて困るようなこと考えないし……。あっ、それよりその右目」

「!」

 流石に不気味がるだろうと身構える少女に桐原はニコニコと話しかける。

「カッコいいな。カラコンか?」

「は? ……いや、地だが……」

「そうか? なら、なおさらいいな! その綺麗な緑色の右目」

 今度こそ完全に肩すかしを喰らい、少女は思わずトンとベンチに座り込む。

「……ぷ、クク……あははははははは! お前には本当に驚かされる。私の“力”を知って尚、欠片も動揺しないとはな! あははははは!」

 一瞬の間を置いて、少女が笑い出した。

 見ればさっきまでの険しい顔が嘘のように、心の底からけらけらと楽しそうに笑っている。

 桐原は人間恐怖症の発作が出ずに話せるのが嬉しくて楽しくてしょうがないだけなのだが……。