(わぁっ!あの格好、かわいい〜!)

(もしかして新しいブーム?)

通りの向こう側にいる、女子高生らしき集団の若々しい“声”が聞こえる。

もしかして普通のニンゲンに生まれたなら―――霊長目ヒト科に属する、別段特殊な能力など何も無い大多数分の一に生まれてくる事ができたなら―――あんな女子高生になれたのだろうか?


時は巻き戻らない。


そんな事は百も承知。戻ったところで私は何も変わらない事も知っている。


平凡な女子高生。


それが見果てぬ夢だと知っていて尚、私は憧れに羨望の眼差しでその制服を眺める。



それは全て過去の私。



今の私は前だけを見て歩くのだ。


やはり“読む”感度はこの数日で格段に上がってきているようで、この離れた距離でも、少女達の心の声が鮮明に聞こえてくる。

けれどそれを聞いて、益々嬉々とする自分がいる。


間違いなく今、この瞬間、私は幸福だった。


そして人々が積み上げてきた過去の暗い深いトンネルのような歴史の例に漏れず、束の間の幸福は一瞬で音を立てて崩れ落ちるものだ―――


「聞いた?なんだっけあのめんどくさい名前……えーっと……そうそう!政治家の『石川 厳十郎左右衛門之助』の噂!」