「桐原さん!この後暇ですか?」


時刻は5時38分

社員の人々の妙な視線を気にしつつも、なんとか一日分の仕事が終わった。


結局の所、人間恐怖症が改善された訳では無かったようで、神流以外の人間が近寄って来ると不安になってしょうがない。

その神流はといえば、30分程先に仕事が終わっていたはずなのだが、帰らずに桐原の隣で何かごそごそやっていた。


「今から?何で」

「一緒にお酒飲みに行きません?いい居酒屋見つけたんですよ!」

「いや、でも……」


酔った赤の他人が周りを取り囲む狭い居酒屋なんてものは、桐原にとっては恐怖の空間以外の何でもない。

うぅ……考えただけで鳥肌が立つ。


それに、他にも何人か誘われているんだろう。

桐原としては、極力会話になるシチュエーションは避けたいところだ。


「大丈夫ですよ」

桐原の不安を感じ取ったのか、神流は髪の毛を右手で掻き上げる魅惑的な仕草で桐原に迫る。


「私と桐原さんの二人だけですから♪」