「改めまして、宇都宮 神流です」

「桐原 空。よろしく」

「よろしくお願いします!」


桐原の女性恐怖症兼人間恐怖症は部署内でも有名な、いわゆる“名物”になってしまっている。

故に、これほどの美人に口がきけるなんて、天地がひっくり返る程の一大事!明日は吹雪かな―――部署の社員は皆、そう思った。


まあ例外もいるが……。


「何かみんな桐原さんを見てませんか?やけに驚いた顔で」

「いや、俺が女の人と普通に話しているのが信じられないんだと思うよ。俺自身、驚いてるし。こんな経験まだ二度目だからね」

そのセリフに、周囲の椅子が激しくギシギシ揺れた。息を飲む音まで聞こえてくる。


(まったく、やりにくいなぁ)

そう思いながら桐原は、夜魅と最初に出逢ったあの昼休みを思い出していた。


(夜魅……か)

彼女に出逢ってから、桐原の人生は変わり始めたのかも知れない。



桐原 空は、物心ついた頃から、人とはある程度距離を置いて生きてきた。

それは自分の為でもあり、また会話が続かない事に嫌気がさすことになる相手を思っての事でもあった。


それでも彼が孤立する事はなく、不思議と桐原の周りには人が集まる。


人を惹きつける才というのだろうか。

あまり会話にならずとも、彼が嫌われる事は滅多に無かった。


しかし本人にそんな自覚は無く、人が寄ってくるたびにビクビクおどおどしなければならないので、さっと人と関わるのを避けるような生活が身に付いてしまった。


彼に人間恐怖症と女性恐怖症という障害さえ無ければ、一体どんな人生になっていたのだろう―――