神流(かんな)と呼ばれた女性を一言で表すならば、間違いなく飛びっきりの美人だった。


すっきりとした、どこか大家の令嬢を思わせる顔立ちに、薄めの化粧。

桜色の口紅は、与える印象を一層良好的に見せている。

髪は軽くカールさせた、肩口までのショート。ふんわり柔らかそうなダークブラウン。


大きな、程よく吊り上がった目によって、眼鏡さえあれば大統領秘書でも通る気がして来る。

……個人的な偏見かも知れないが。


「こいつが噂の“人間恐怖症”桐原 空だ。よろしくしてやってくれ、神流君」

「はい。よろしくお願いします!」

「ああ、こちらこそよろしくどうぞ……って」


『え゛!?』


「えっ?どうしたんですか?」

神流以外の全ての社員の表情が、一瞬にして固まった。

桐原、ブルドッグだけでなく、ニヤニヤと事の顛末を見ていた部署の全ての人間が、氷結(フリーズ)したように固まってしまっている。


「おい桐原……お前……」
「か、か、課長……」


「皆さんどうしたんですか?」

神流の、首を傾げた状況を理解していない笑みだけが、静まり返った部屋の中で異彩を放っていた。