「桐原!お前がいなかったおかげでこんなにも仕事が溜まってるだろうが!」

朝からブルドッグの怒鳴り声(唸り声?)が耳に突き刺さる。


「す……すみません」

『え?休んでいいって言ったじゃないですか』なんて、間違っても桐原は言わない。言えやしない。


結局人間恐怖症は大して改善された訳でもなく、街を歩けば通行人にビクつくのも相変わらずだった。

今だってブルドッグの腹の奥に響くような怒鳴り声に、おどおど謝る事しか出来ない。


まあ、それは他の大多数の平社員も同じなのだが……。


「お、そうだそうだ。桐原、お前は休んどったからまだ紹介しとらん筈だな?」

「は、はぁ……誰ですか?」


桐原は、とりあえず“美女”じゃないことだけを切に願った。

相手が綺麗な人になればなるほど、女性恐怖症の危険度が増してしまう。


それはまずい。ひじょ〜にまずい。


「話ぐらいは聞いてるだろうが、若い女の派遣社員だよ。それも飛びっきりの美人だぞ」


最悪だ。

ニヤニヤと笑うブルドッグ顔が憎らしい。


「しかもお前の隣の席だからな。まったく羨ましい奴だ」


そんな事だろうと思ったが、言わせてもらうと……このおっさん、完全なるドSか!?

勿論心の中で叫んだ。


磐田課長の十八番“必殺桐原いじり”は、今日は一段と絶好調らしい。


「課長……そ、それはちょ―――」

「おーい神流君」


「はーい♪」