初夏のジリジリとした日差しが、夜魅の白い肌を焼いていく。

太陽はもう頭上を過ぎ、日陰も徐々にその長さを伸ばし始める。


しかし観覧車の青い26番カーゴの中には、外の喧騒とは打って変わり、しんみりした空気が漂っていた。


「母親か……」

そう言って窓の外の光景を眺める夜魅の横顔は、どこか寂しそうな表情だった。

夜魅の両親の話は聞いていたので、桐原はそっとしておくことにした。


……筈だったのに!


「な、な、空!親がおるとは一体どんな感じなのだ?」

(こいつ……俺の気遣い、完璧に台無しにしやがった)

おまけに、なんでこんなに目が爛々なんだ……。


「やっぱり皆、優しいのか?瞳の母親のように、自分の娘のために泣けるものなのか?それとも―――」


夜魅はそこまで言うと「あっ」と口を抑えた。

桐原は、困ったような顔で笑っている。


「俺のお袋のことだろ?」

「すまぬ……私が読みたいときにだけ読めれば良いのだが……」

「いいさ、昔の話だしな。……優しい人だったんだ」

「すまぬ……」


夜魅はもう一度言って、本当にすまなそうに首(こうべ)を垂れる。


「顔を上げろよ。夜魅」

見上げた桐原の顔は、いつもよりも優しく穏やかだった。


「頑張って生きてれば、きっといつか夜魅もお袋さんに会えるさ。それまでは……そうだな、仮でもいい。俺がお前の『家族』って事でどうだ?」

「家族……」

「そう、家族。帰る場所だ。……やっぱり嫌か?」


夜魅は、首を横にブンブンふると、今まで見せたどんな笑顔よりも眩しい笑顔で、にっこりと微笑んだ。


「ありがとう……空!」

「うわっ、だからって抱きつくな!ゆ、揺れる!落ちる!!」


観覧車はたった二人きりの『家族』を乗せて、ゆっくりと赤みがかった空の下を降りていく。