「ああ、檻だ」

 そう言って夜魅は桐原から顔を離し、再び床との対談を始めた。

「連れてこられた私に与えられたのは、広大な石川の屋敷の一角で、ベッド、簡素な机と椅子、それに小さな電灯のみの6畳程の部屋だった。……唯一ある南向きの小さな窓には鉄格子。そして入り口のドアは外からしか鍵がかけられない仕組みだ」

「それって明らかに監禁じゃないか!」

 桐原は目を見開いて驚いたが夜魅は、ああそうだなと静かに首を振った。

「たしかに監禁生活だ。食事は一日三回与えられたが、外どころか殆ど部屋から出ることは叶わなかった。オマケに屋敷中の監視カメラが私を見張っておった。寝るときも……トイレの時も……風呂の中までな」

「……!!」

 桐原は声を失った。

(な、なんだよそれ! それじゃあまるで……)

「『囚人みたい』だろう?」

 夜魅は悲しそうな微笑みで、自らを嘲笑した。

「だが私には耐えるしか選択肢は残されていなかった。それに、あの肌を突き刺されるような嫌悪の視線や、石を投げつけられる苦しみに比べられば、比較的耐えられるものだったよ」

「……」

「私はそこでは寝るとき以外、常に《和服》でいることを命じられた。そこに干してあるのも、その内の一着だ」

 風呂場に干してある薄紫の着物は、生地が薄いせいか大体乾いてきていたようだ。

 着物と服の中間程の丈に誂われた、美しい、名も知れぬ華の模様。えもいわれぬ柔らかな肌触り。

「他にも話し方や作法等色々と叩き込まれた。その時は何のためかなど、私が知る由もなかったが……それも、ある程度作法を覚えた一ヶ月後には理解した」

 言いながら夜魅は立ち上がり、くるりと背中を向けると、何を思ったのかジャージとTシャツを一緒くたにバサリと脱いだ。