「孤児院の、私のように何らかの事情で親から離れた子供達、その殆どが心に傷を抱えてておったな。暴力、育児放棄、犯罪幇助……中には読むのも辛い程に心がズタズタになった、私より小さな子供もおった。レンさんに救われた私は、まだましな分類だったよ」

 ズズッ。

 お茶を啜ることで気を紛らせているのか、夜魅の視線は湯飲みに注がれたままだ。

「殆どの子供は自分の殻に閉じこもっていたので、私などに興味を持つ者はごく一部だった。たまに話し掛けてくる子供や職員もおったが、私の力を知るやいなや、逃げるように側を離れていった。……まあ、暴力が無い分と幸せを知っている分、辛さは和らいだのだがな」

 ここで明らかに夜魅の表情が暗くなった。湯飲みを持つ手がカタカタと小刻みに震えている。

「お、おい! 大丈夫か?」

「は、はは……私は未だにあの時の恐怖が拭いきれていないのか……」

「何が……いや、やっぱり話したくないなら話さなくても―――」


「『鬼』だ!」


 夜魅は眉間にしわを寄せ、険しい顔で吐き捨てるように言った。

「えっ?」

「私は鬼(あの男)に見つかってしまったのだ……」