「そして私の退院の日。結局親戚一同は孤児院に預ける事に決めたらしく、病院に迎えに来たのはそこの女性スタッフだった」

 ふぅ、と一息ついた夜魅の白い小さな顔は、先の興奮状態が落ち着いたからか、一層青白く見えた。

「む。ああ、すまぬ。私ばかり話していては食が進まぬな。ほら、そんな顔をしていないで食せ……と、もう冷めてしまったか」

 みそ汁は、既に冷たくなっているし、大半は食べたとはいえ、食べかけのご飯とおかずも然りである。

(そういえばこの料理、この子が作ったんだよな……よくあのアマゾンみたいな冷蔵庫から材料発見できたな)

 なにせ1ヶ月前のカレー等が普通に入っているのだ。

 それにそのままでは腐って生ゴミになっていただろう余り物で、こんなに美味い朝ご飯が食べれたのだ。勝手に人の家の食材を使って……などとは、桐原には思えなかった。

 無論、今時珍しい珍種である善人の桐原は、文句を思い付く間に、残っていた全てのご飯を平らげた。

「ご馳走さまだ。ありがとう、久しぶりに美味い物を食った。冷めても美味かったしな。それより茶でも煎れるよ」

「いや私がやろう。お前は座っておれ」

「あ、茶葉は―――」

「『戸棚の右端』、だな」

(恐れ入ります……)

 夜魅の煎れたお茶は、自分で煎れるより遥かに風味豊かだった(気がした)が、桐原の内心は、夜魅の凄惨な過去と救われた話でいっぱいだった。

 しかもそれにはまだ続きがあるようで、さっきから夜魅はテーブルと桐原を交互に見比べている。また血の気の失せたようなその表情を見る限り、楽しい話では無さそうだ。

 そんな夜魅に今度は逆に気を遣い、桐原はあえて何も言わずに、ただ静かにお茶を啜っていた。

 ズズー……。

 決意。意を決するには誰しも時間が必要だ。秒を刻む針が円盤の上をくるりと一周し、朝の時間だけがゆっくりと過ぎていく。

 熱いお茶を飲んで夜魅の頬にも多少赤みが差し、遂に決心がついたのか、まるでどの程度まで見限らないかを推し量るように、桐原の目をじっと見つめながら彼女は切り出した。