端から見れば、Yシャツにエプロン姿の夜魅とスーツ姿の桐原との組み合わせなら、新婚夫婦の朝でも通るのだが。あいにくジャージと寝間着のスウェットである。

 彼女はそういった事に関心が無いのか、服装に文句をつける事もなく、大人しくダボダボジャージに収まっていた。


「じゃあ夜魅ちゃん」

「ちゃん付けなど気持ち悪い! 普通に夜魅でいい夜魅で。調子が狂う」

 再確認すれば歳では完全に桐原の方が上なのだが、夜魅は一向に強気な態度を崩さない。

「……夜魅」

「うむ、よろしい。で? 私はお前の人間恐怖症の治し方など知らんぞ?」

 今までは、相手がどこの誰だろうと大小何かしら症状が現れていた。全く何も起きなかったのは、今回が初めてなのである。

 それにこの少女には、言いたいことを全て先に知られてしまう。

 このやろー随分便利な特技をお持ちなこってと、桐原は硬めの目玉焼きを頬張った。この、黙って一番好きな硬さにしてくるあたりが、また憎い。

「のお、空」

 味噌汁に手を伸ばすと、今度は夜魅の方から話しかけてきた。

 もちろん一般人の桐原には、彼女の考えている事なんて全くもって分からない。

「空。昨日も言ったが……お前は本当に私が気味悪く無いのか?」

 夜魅は桐原を、下の名前で呼ぶことにしたらしい……まあ、自己紹介はしていないのだが。

「くどい! 別に気にならないって言ってんだろ。人は人、俺は俺、そんでもってお前はお前だ。違うか?」

 箸で自分と夜魅を順に指差して味噌汁を啜る。

 ズズー。お、うまっ。

 即席だろうが、その久しく口にしていなかった味噌の風味に舌鼓を打つ。ネギのアクセントもいい。

「だから、お、お前はよせと……」

 夜魅は視線を落とし、耳を赤らめながら、なにやらゴニョゴニョ呟いていた。

(そういえば人と食う朝飯も久々だな。おまけに旨かったし、やっぱり一人よりは―――)

 思わずそんな事を考えて、ハッと気付いた時にはもう遅かった。俯く少女は、上目遣いで桐原を見ながら口元が笑っている。

 にゃろう、露骨に嬉しそうじゃねーか。照れ隠しはどこいった!

 結局、わざとらしく黙々モグモグと食べ続けるはめになった。