「(…はっきりしないなァー)」





どいつも

こいつも。



ほんと、はっきりしないよ。








蟠りが心をモヤモヤと渦巻く。





「響子ちゃんが嫌いなのかい?」





ムッと膨れる僕に白夜は、不思議そうに首を傾げた。



まるで響子ちゃんを嫌いになる人は早々居ないと言いたげで、尚更腹立つ。



いや…



確かに嫌いじゃないけどさ…





「興味ない」





うん。これが妥当だよ。



満足気に頷くと白夜はちー君の時のように笑みを浮かべた。



…なに?





「知れば知るほど嵌まると思うよ。実際彼等がそうじゃないか」

「嵌まる?絶対無いよォー。弱いもん」

「だからじゃないか。だから守りたくなる。きっと、春陽が彼等側に居たらイチコロだったさ」

「……」





何を言われるのかと用心深くしていれば、眉を顰める僕を無視して白夜は話す。



理解出来ないよォー。確かに可愛いけどそれとコレとは話が別ゥ!響子ちゃんは弱いからあまり興味は沸かないなァ〜!





「僕が興味あるのは血と走りだけだしィー…」





少し苛つきギュッと握ったナイフの刃からポタポタと血が伝う。



やっぱ赤は良いよねェー。



赤い血に笑みを濃くする。



血は、僕を落ち着かせる。








でも白夜が総長になってから季神全体の大暴走はしてないなァ…。スリル不足だよね。うん。



ポッカリと空いた胸を血の興奮で埋める。
ポタッポタッと地面に落ちる血。



―――――だけど血だけじゃ僕の心は埋まらない。









基本季神は暴走しない。ちー君も白夜も夏彦も暴走なんて興味ないし仕方ないかァ〜…
あ〜あ詰まんないなァ



鬼神は狂人が集結した族。なのに今の季神はただの変人の集まり。まぁ、あの雰囲気は嫌いじゃないけどねェ。





「あーあ…」





珍しく滴る血に意識が奪われない。思考は季神・鬼神・響子ちゃんの三点をぐるぐると回る。



僕は謎の少女・響子ちゃんについて考えてると、ふとあることに気がつく。












白夜が1つ場所を食い入るように見つめている事に。



ただその一点に釘付けだ。



いつしか黙ったままの白夜を見ると、探るようにその場所を見つめていた。





「木陰になんかあるのォ?」





白夜が真剣な眼差しで何かを見つめているのが不思議で視線の先を辿るけど――――ただの木陰。



暫くして真剣な目が何を考えているのか分からない目へと変わる。
歪んだ口元が白夜の癖のある性格を表す。





「春陽、前言撤回させて貰おうか」




白夜は木陰を見つめながら笑う。その木陰には、



誰か居る?





「知り合いさ――――深い、ね」





誰と?



―‥なんて愚問だよォ。



"あの"ちー君を動かして二次元オンリーの夏彦に興味を持たせた。そして癖のある白夜をこんなにも愉快にさせる彼女の魅力は一体―――――何?



それを僕が知るのは、もっと先なのかも知れない。



















* * *



思った通り外は暑かった。保健室が何れほど聖地だったのかを身に染みて感じる。



ジャージを着ているから尚更そう思う。腕捲りをしていても暑さは凌げない。だけどキスマーク2つと歯形をどうにかして隠さないと。



なのでさっき保健室から更衣室にジャージを取りに行った。



そして今は宛もなくただ歩いている。



自然と校門へと向かっているのは気のせいじゃない。



きっと行けばまだ里桜が居るのかな?と期待しているから。



このもどかしく不安定な気持ちを取り除きたい。



いますぐにでも、里桜に会いたかった。



ふと並木道を歩いていると誰かは分からないが目に止まった。よく目を凝らして観察すると――――――――――見知った人物だった事に小首を傾げる。





「あれ?」





それは千秋だった。





誰か居たため様子を伺っていたけど千秋だと分かり近づこうとした。


が直ぐに物陰に潜む。



隠れる必要はないかも。



しかし条件反射だった。



千秋の隣に居るひとを見た途端、脳内にサイレンが鳴り響いたから。









「………嘘」





目を見開き、口元を手で覆う。目の前の光景が信じられずに小さく呟いた。



あの"春"の人が居たから。



なんで?どうして此所に?千秋と一緒いる意味が分からない。



だって千秋は……





ふと思った事に固まる。





『だって千秋は』



――――――なに?





千秋は何?



思えば、私は千秋の事を良く知らない。



急に千秋が黒髪に銀色のメッシュを入れた理由も。わざわざ銀色に髪を染めて神楽坂に来た理由も。わたしは千秋の事を何一つ知らない。



わたしが知るのは昔の千秋であって“今の千秋”をよく知らない。その事実に千秋との距離を感じてしまう。



里桜も然り。いつも私の事ばかりで里桜の身の上話を聞いた事なんてあった?私が里桜に手を差し伸べた事は?―――ないと、思う。



あの姉弟の“南”の部分を深くは知らない。東の学校に通う南の住人の姉弟。プライベートである南の部分を、よく知らない。



南を統治する季神。何らかの形で南に住む千秋が季神の“春”と知り合いになっても、可笑しくはない。



考えれば考える程に千秋はもしかしたら―――――なんて飽く迄、推測でしかない考えまで浮上してくる。



目を凝らして千秋を見る。



話さないと言うことは私が踏み込んではイケないのかもしれない、と思った。



仮定を胸に閉じ込めて目を逸らすつもり、



だった。




直ぐに逸らすつもりだった。








だけど私は、もっと目を見開いて“春”と千秋の居る場所をこれでもかと言うほど食い入るように見つめた。





半信半疑だった、



だけど観察するにつれ疑念は確信へと変わっていった。



独特な雰囲気は早々居るものではない。あの笑顔の裏に隠された狂気の沙汰ではない謀の数々。



人を従える事は一級品。優れた頭脳と有り触れた知識を兼ね備えた文句なしの人。
ただ性格を除けば、の話だけど。



黒髪に入れられた白のメッシュは相変わらず。白髪だと罵っていた頃が懐かしい。今は珍しく制服姿。何を考えているのか分からない笑みも、健在。





黒い彼は不気味。

白い彼は朗らか。





だけど本当は灰色。不透明で何にも染まらず常に一定。黒×白で出来た灰。ただ我が道を行くだけの自由放漫な彼。



彼に目を奪われると同時に不安定な心が更に揺れる。



初めて不気味な灰色の彼を見たとき誰かに似ていると思った。それは千秋だったのかもしれない。













久しぶりに逢った灰色の彼は
千秋と、春のヒトとも、
どこか似ていた―――――‥。







「―――白夜、君?」







第5章<上> Fin.

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