青みがかった髪の毛に、氷のような水色の瞳――間違いなく、アルハイド伯爵だった。
「こんにちは、ノア」
恐ろしく整った顔に、優しげな微笑み。女性なら一瞬で堕ちてしまうだろう。けれど騙されない。
わたしは緊張に体を固くしながら、黙った。
「怖がるな。私はお前を拾った。お前は町で死にかけていたんだ。感謝位してほしいものだな」
感謝なんか、しない。
それにわたしは、死にかけていたんじゃなく、少し寝ていただけ。……ということにしておく。
「……どうして、わたしをここに?」
すると、伯爵は少し驚きに目を見開いた。
「……本当に知らされていないのか。あの娘も面倒だな」
あの娘?……クラリス嬢のことだろうか。
と、面倒くさそうに伯爵は説明をしてくれた。
「あの時のことを、覚えているか?お前に初めて会った時のことだ。あの時私は、あの貴族の小娘より、お前の方が美味そうだと思ったんだ」
……は?
美味そう?
「一番美味いのは人間の血、そしてその中で最も品質が良いのは女の血だ。だが、その女の中にだって美味いものと不味いものがある。あの貴族の血は不味そうで、お前の血は美味そうだった。それだけだ」
それだけだ、と言われたって、わたしにはさっぱり理解できない。
吸血鬼だから、血の良し悪しだけで、女を決めようとしたということだろうか。
「それで、お前がホールを出て行ったあと、貴族の娘ではなくお前……ノアという名のメイドを欲しいと言った。するとメイドを伯爵に差し上げるなんてできない、すぐに首にすると言って、そのままだ」
「……はあ」
「私はお前の血が飲みたかった。お前程旨そうな女は見たことがない。だから探した。そうしたらお前は、町で死にかけていたわけだ」
……なんとなく、状況は理解できた。そして、腹が立った。
つまり、わたしが首になったのは、この伯爵のせいということか。
最悪だ。