いよいよ、舞踏会の時間が迫ってきた。
準備があるので待っていてください、と言われ、自室で待機していたわたしは、落ち着かない気分でベッドの端に腰掛けていた。
ああ……緊張する。
でも、この屋敷にいる以上、きっとこんなことはよくあるのだろう。ダンスだって、メイド養成所で簡単なワルツは習った。グレイもそこまで上手いわけではないと言っていたし、今回はそんなにお堅い集まりでもないと聞いた。
大丈夫、大丈夫……。
それでも最後に身だしなみのチェックはしておこうと、部屋に設置された姿見の前に立つ。
くるりと回ると、上質なドレスの裾が優雅になびく。
ドレスは完璧…。
「……あれ?」
視線を上へ向けて気づいた。
……ない。
グレイからもらった花の髪飾りが。
「……嘘」
髪に付けていたつもりだった。
もしかしてとドレッサーの中も探したりみたけれど、ない。
どこかで落とした……!?
どうしよう。今日行ったのなんて衣装室くらいだ。……もしかして、ドレスに着替えているときに、外してそのままにした?
いや、違う。
衣装室のどこにも髪飾りがなかったから、わたしは今の今まで髪につけていると思っていたのだ。
なんにしろ、どうして気づかなかったんだろう。