名前と、そしてどんな人かは思い出した。
けれど、それでもわたしがここにいる理由が、さっぱりわからない。
わたしはサンセットの町で行き倒れていたはずだ。服も汚かったし、なによりただのメイド。アルハイド伯爵はわたしの名を聞きはしたけれど、もう忘れているだろうし、顔だって覚えていないはずだ。それなのに何故。
そんなことを考えているうち、スープはすっかり冷めてしまった。
食べなければ失礼に値するかもしれないと、慌てて口に入れる。お腹はぺこぺこだったし、そのチキンスープは冷めていてもとても美味しくて、すぐお皿は空っぽになる。
どうしよう、このお皿。
洗いたい……と元メイドの血がうずく。けれど、勝手に部屋を出たりしたらいけないだろう。というより、ベッドを出てふかふかの絨毯を踏むことすら罰になる気がして、その場から動けなかった。
迷っていると、今度は何の前触れもなく、扉が開いた。
現れたのは、さっきの執事さんと、そして――。
アルハイド伯爵。