何かを言いかけて、口をつぐむ。
けれど、わたしにはグレイがなんと言おうとしたのか、すぐにわかった。
――美味しそうですから。
きっと、そう言おうとしたんだ。
わたしの前でそんなそぶりは見せないけど、グレイだって吸血鬼だ。
伯爵がわたしをここに連れてきた理由だって、「美味そうだから」と言っていた。従者であるグレイが同じことを思ったって、不自然ではない。
……やっぱりグレイも、わたしの血が飲みたいのだろうか。
こくりと息をのみ、わたしは勇気を出して――。
「グレイ、あの」
そのとき、コンコンと衣装室の扉がノックされた。
「は、はい」
慌てて返事をすると、控えめな女の子の声が聞こえた。
「あの、ノア様の衣装合わせをお手伝いに来たメイドの者です。入ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
扉を開ける。気を使ったのか、グレイは外で待っていますと言い残して部屋を出た。
……言いだせなかった。
ため息がこぼれる。