「ノアさんの髪が、私は好きです」


その一言に、心臓が跳ねる。

裏表のない、心からの言葉。
わたしが赤くなるのも無理はないと思う。

わたしは、蚊の鳴くような声で

「……ありがとう」

と言うのが精一杯だった。
けれど、そのあと、あの花の髪飾りが目に止まったわたしは、小さく微笑みながら、初めて髪につけた。



そんな風に身なりを整え、朝食をとっていたとき。


唐突にグレイが言った。


「あの、ノアさん」
「なぁに?」
「今夜の、舞踏会のことなのですが」
「ええ……えっ!?」


頷きかけたわたしは、聞き慣れない単語に思わず声をあげた。

「い、今……なんて?」
「ですから、舞踏会です」

特に慌てた様子もなく、グレイはさらりといった。

「舞踏会…?」
「はい。……あの、すみません、急な予定でしたから……」

申し訳なさそうなグレイに、更に尋ねる。

「今日、あるの?」
「はい。今日あります」

……くらりと目眩がした。