「え?」
「手が止まっていらしたので……」

どうやら、悶々と考えているうちに、ブラシを持つ手が止まっていたらしい。

「あ、な、なんでもないのっ。大丈夫よ。えーと、その、わ、わたしよりグレイの髪のほうが綺麗だな、なんて……」

ごまかすように言うと、そうですか?とグレイは首を傾げる。

「私にはノアさんの髪の方が綺麗に見えます」

わたしは苦笑する。

「ありがとう。でも、中途半端な色でしょう。焦げ茶色だし、クセがあるし……」

とかしかけの髪を見る。
焦げ茶のような黒のような髪は、クラリス嬢のような輝く金髪でもなければ、グレイのように漆黒でもない。そのうえ、緩く癖のある髪は、ふわふわと捻れている。
小さい頃は、さらさらのストレートに憧れたものだ。

けれど、グレイは断言する。

「いいえ。ノアさんのほうが綺麗です」
「あはは……」
小さく笑うと、「少なくとも」と静かな声でグレイは言った。