わたしは、グレイの腕に抱きしめられていた。
そして、驚いて顔を真っ赤に染めるわたしを見て、ゆっくりとーー。
淡く、微笑んだ。
綺麗すぎる笑顔に、呼吸を忘れた。
こんな笑顔は、見たことがない。こんなに綺麗で、そしてーー安心できる、笑顔は。
「……ノアさん」
わたしを抱きしめたまま、グレイが静かな声で言う。けれどその声には間違いなく、喜びが溶けていた。
「私は、ノアさんを置いてどこかへいったりしません」
涙は、いつの間にか止まっていた。
ただ、グレイの優しい声に、耳を傾けていた。
「あなたの傍にいます」
「……グレ、イ」
そして、喜びでまた涙の滲んできた瞳でグレイを見つめ、震える声でたずねた。
「……ほんとう、に?」
「はい」
「絶対に?」
「はい」
「ずっと……?」
「はい」
その言葉で、決壊した。
さっきとは比にならない程の涙が、あとからあとからこぼれる。
嬉しくて。
ただただ、嬉しくて。
涙でぐちゃぐちゃになった顔をグレイの胸に押し付けてしがみつくと、強くグレイも抱きしめかえしてくれる。
そして、唖然とするクラリス嬢に、きっぱりとグレイは言った。
「私は、あなたの奴隷にはなりません。ずっと、ノアさんの隣にいます」