グレイが、振り下ろされたクラリス嬢の手を受け止めてくれたのだ。

とくん、と小さく心臓が跳ねる。


「ノアさんに、乱暴をしないで下さい」

冷静な声……けれど、そのなかに僅か、怒りが滲んでいる。
クラリス嬢は怯んだように手を引っ込めたけれど、それでもなお、グレイに食ってかかる。

「な、何よ。あなた、この女の世話係?何にしろ、伯爵の僕でしょう?なら、私に従いなさいよ!」

そして、ふと気づいたというように、グレイの姿を眺めた。
そして嬉しげに頬を染める。

「あら、あなたよく見たら素敵ね。それに吸血鬼?……そうだわ。特別に私専用の、奴隷にしてあげる」

「えっ!?」


とんでもないことを言い出したクラリス嬢に、驚いたのはわたしだった。

グレイがクラリス嬢のものになる?

そんな……。

「嫌……!」

わたしは、いつの間にか震えていた体で、グレイに抱きついた。